2018年4月2日月曜日

わたしを忘れないで

おじいちゃん子、おばあちゃん子だった。
そのせいか、とても信心深い子供だった。
道端のお地蔵さまには必ず頭を下げたし、盆暮れ正月は必ず帰省して、
おじいちゃんおばあちゃんたちと過ごした。

おじいちゃんと、おばあちゃんと、叔母と、母と、私。
お菓子を買う時も、家庭科の授業で調理実習をする時も、
必ず5人分を持って家に帰った。

普段、母と二人で暮らしていたけれど、
私はいつでも「5人家族」だったのだ。

おじいちゃんが逝ってしまったとき、「死」という存在は途端に私の身近になった。
6年後におばあちゃんが、その翌年におばが逝き、
その間に東日本大震災があり、
「死」は私の目の前の現実になった。
常に頭に、日常の傍らに、そこかしこに死を見ているような気分だ。

「おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。」

ニーチェ先生の言うとおりだ。
まさにそんな気分で、あれからずっと過ごしている気がする。

『リメンバー・ミー』を観て、号泣したのはきっと、死者たちの国で、楽しく暮らすご先祖さまたちが、おじいちゃんやおばあちゃん、おばだったら良いのにな、と思ったからだ。

舞台はメキシコ。
音楽を忌む一族に生まれた少年ミゲルは、音楽家になりたい夢と、そして何より才能を持っている。ひょんなことからミゲルは死者の国へ迷い込んでしまう。
この映画は「一族」という絆で繋がった人たちの、赦しと愛の映画だ。

メキシコには「死者の日」という日本でいうところの「お盆」がある。
道にマリーゴールドの花弁を敷き詰め、亡き先祖が死者たちの国から自分の祭壇がある我が家に帰るのだ。
メキシコの死者の国は明るい。
鮮やかな色彩に溢れ、賑やかで楽しそう。
日本人の思う死者の国のイメージとは大分違う。
「死」の先に、なんだか夢や希望が見える気がするのは、私だけなのかな。

本編、ミゲルには心強い味方がいる。
野良犬のダンテだ。
ダンテは本作で、ミゲルを導いてくれる頼もしい友だ。



私も今、一緒に暮らす相棒がいる。
彼の名前も、ダンテ。なんという偶然。
カフェオレ色のミニチュアダックスの彼もまた、私を導く頼もしい相棒だ。


この映画を観て、
きっとおじいちゃんもおばあちゃんもおばちゃんも、あんな風に過ごしていて、
今は会えなくとも、きっと楽しく笑ったり、喧嘩したりしていてくれたら。
私は寂しいけれど、それでも彼らが楽しそうなら、それで嬉しい。

主題歌はこう歌っている。

 Remember me  
 Though I have to say goodbye
 Remember me 
 Don’t let it make you cry 
 For even if I’m far away I hold you in my heart 
 I sing a secret song to you each night we are apart 

 僕のことを覚えていて
 さよならを言わなければならないけど
 僕のことを覚えていて
 お願いだから泣かないで
 僕が遠くに行ってしまっても、君のことは僕のハートに留めておくから
 君のために秘密の歌を毎晩歌うから

この歌を聞いて、頭を撫でられている気がした。
この曲には、置いて逝かれる者への愛が溢れている。

原題は『COCO』。ココはミゲルの曾おばあちゃんの名前だ。
原題にある通り、このステキな曲も、赦しも愛も、実は曾おばあちゃんであるココに捧げられている。そんなところも素敵。
そんな感じで、私はこの映画の序盤から、ボロボロ泣き始め、終わっても泣きながら家に帰った。

良い邦題の映画はそんなに多くないけれど、『リメンバー・ミー』は良い邦題だと思う。

「わたしを覚えていて」
それはつまり
「わたしを忘れないで」
だ。

先に逝く彼らはそう思うかもしれないけれど、
この言葉は置いてく者と、置いて行かれる者、両者が抱く想いだ。

私もまた、彼らに思う。

おじいちゃん、おばあちゃん、おばちゃん、
「わたしを忘れないで」


本日の映画

タイトル:『リメンバー・ミー』
原題:COCO 上映:105min 製作:2017年・アメリカ
監督:リー・アンクリッチ
出演:アンソニー・ゴンザレス/ガエル・ガルシア・ベルナル/ベンジャミン・ブラット